当社を取り巻く環境は過年度のコロナ禍での需要の前倒しの反動や、物価高による消費の伸び悩み、行動制限緩和によるレジャー支出の増加などから買い替えに伴う需要を除き、おしなべて盛り上がりに欠ける商環境に終始しました。一方で、当社が業界で唯一オフィシャルスポンサーを務める、「阪神タイガース」が9月のリーグ優勝、11月の日本シリーズ制覇と2度の大きなセール開催が実現し、当社グループ各店舗に多くのお客さまが来店され、今後の事業基盤となる新規会員の大幅な増加を実現することができました。
かかる環境下、「JT-2025 経営計画」(以下、本中計)初年度実績は、財務目標の大半は未達となりましたが、売上総利益率の改善(前年比+1.3%増)により、前年度を上回る営業利益(前年比+0.6%増)を確保し、「財務基盤」における各指標は、純資産1,046億円、ネットD/Eレシオ0.47倍など、健全な水準を維持できていると認識しています。
一方、当社全体の売上の伸び悩みに起因する、棚卸資産の増加(約21億円)や、3月単月での売上債権の増加(約24億円)など、営業キャッシュ・フローは約48億円減少し、ネット有利子負債※が約60億円増加しています。関西茨木物流センターのさらなる有効活用や、ネットとリアルの販売形態の融合、積極的店舗関連投資による営業戦略の充実など、過去からの取り組みの展開強化により、厳しい環境が続く中でいかに消費者に関心を持ってもらうかといった部分での改善はむしろ今後の当社グループの「伸びしろ的な課題」であると捉えており、全社的な取り組みにつなげ中期経営計画トータルでのキャッシュ・フロー計画の実現を目指してまいります。
※ネット有利子負債=有利子負債-現預金
「安定した財務基盤」に加えて効率的な資本活用を通じて、サステナブルな企業経営を支えることが財務の基本的な方針です。財務方針上のポイントは以下3点であり、本中計では、ROE、ROA、ROICを主な経営指標としています。
①財務基盤の安定維持
②営業キャッシュ・フローの最適配分
③資本コスト、株価を意識した効率経営の推進
当社グループは、これまで同業他社比劣位にあった財務の安定が企業成長の礎と考え、前中計では自己資本比率45.0%以上を目線に資本の充実を図ってきました。2019年度以降、自己資本比率はおおむねこの水準を維持し、D/Eレシオも0.5倍を下回る状況が続いています。
今後も財務における安定した基盤を維持させてまいります。
本中計では、事業から創出されたキャッシュ・フローを未来への「成長投資」として中心に据えつつ、「株主還元」、「有利子負債削減」をバランスよく実施し、資本効率の最適化を進めていきます。
当社グループでは、資本コストや株価を意識した経営の実現のため、当社グループが目指すストーリーを策定し、さらにはPBRロジックツリーを分解して、経営の各施策に落とし込みのうえ、今後も株主・投資家の皆さまとのエンゲージメントを進めて、PBR1倍超(2023年決算期末現在、0.6倍台)に向けた経営を推進していきます。
本中計における資本配分については、営業キャッシュ・フローを3カ年累計で、400~450億円程度の創出を前提にキャッシュ・アロケーションを計画しています。初年度の営業キャッシュ・フローは23億円にとどまりましたが、適切な財務レバレッジ活用などにより、将来の成長投資の方向性は変えずに取り組んでまいります。
具体的には、株主さまへの配当性向40%以上を前提に、営業キャッシュ・フローの2割程度、既存事業、M&A、サービスインフラの充実といった成長戦略を中心とした投資に7~8割程度を振り向けます。残りは財務基盤の安定維持の観点から有利子負債の削減を進めていき、株主還元の充実を図るためにもROE向上を目指してまいります。
成長投資については、営業キャッシュ・フロー上は営業経費支出とされる人的資本や、システム、DX関連など無形資産についても、継続して積極的に取り組みます。
今般、当社の株主還元について見直しました(2024年3月26日 配当政策の変更に関するお知らせ)。
従前より、考え方の基本は業績の状況及び配当と内部留保のバランスに配慮しながら、安定した配当を継続することでありますが、それに加えて配当性向について30%以上から40%以上を持続することに変更しました。これにより2023年度は、1株当たり90円(2022年度75円)の配当としました(配当性向48.4%)。
今後も株主還元を経営の最重点課題の一つとして認識し、株主還元のさまざまな考え方(自己株取得における総還元性向、DOE=株式資本配当率など)について、都度情勢に適合させ最適化を目指して検討します。
資本配分の根本となる純資産については、年度ごとの見直しや会計上のディスカッション、適切なスクラップアンドビルドの実施により最適化を図っています。この資産をベースとした事業活動における収益力の強化がEPS(1株当たり当期純利益)の拡大につながり、この持続が将来成長への期待を呼び、PER(株価収益率)引き上げ、PBR向上へと向かうものと考えています。
①自己株式の取得
現在、当社は比較的コンパクトな発行済株式数(28百万株)で、自己株式取得において枠を定めるといった方向性は現実的ではないと考えています。
ただ、昨今の政策保有株式処分の流れの中で、相応のまとまった株数が一度に放出されるなどの動きもあり、株主利益との兼ね合いの中で、機動的に取得の検討を行うこともあります。
②配当性向
前述のとおり株主還元策の一つとして、今後も検討を行い最適化に努めてまいります。発行済株式数の関係から、配当についても柔軟な対応が可能であり、キャッシュインパクトへの影響も限定的です。
③政策保有株について
コーポレートガバナンス報告書に記載のとおり、保有の意義を照らし合わせ先方との協議を重ねながら、相互に了承し売却可能な株式から適宜処分を進めています。2023年度においては政策保有、純投資含めて約12億円の株式売却益を計上し、最終的な利益やROE向上においても一定の役割を果たしており、今後も資本効率の観点からこの動きは進めていきます(また、新たな政策保有は原則行いません)。
④最適事業ポートフォリオの構築
当社は、サステナブルな企業経営を目指して、最適な事業ポートフォリオの構築、そのための成長投資を積極的に進めていますが、その前提には全社経営指標であるROA、ROICの確保を想定しての投資判断が必要と考えています。今後も、事業戦略担当役員とも連携のうえ、効率経営を前提とした積極投資を進めていきます。
⑤IR活動の強化(体制強化)など
当社では半期ごとの決算説明会、個人投資家説明会やWeb開示など、IR活動を積極的に進めています。引き続き、IR活動を積極的に実施し、株主・投資家をはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションにより、会社経営の高度化、当社成長戦略の理解浸透につなげていきます。
(2024年7月1日付で「IR推進室」を新設)
2023年度のミーティング件数自体はまだ少ないですが、限られた機会の中で得られた貴重なご意見、気づきを踏まえ、「株主資本コスト」「加重平均資本コスト」の見直し、本中計に掲げた個別戦略の進捗と課題の開示などを実施しました。また、資本コストや株価を意識した経営によって2030年のあるべき姿を実現すべく、次期中期経営計画を見据えた事業戦略に関する議論を、取締役会をはじめとした経営レベルでの会議でスタートしました。
今後も株主の多様化が重要なテーマの一つです。当社はIR活動においても「ファンベース戦略」の思想を取り入れ、投資家の属性や国内外を問わず、多様なファン株主の獲得に取り組んできました。地道な活動の結果、単元株主数は2024年3月末現在、前年から2,784名増加(17.0%以上増=3月末株主数18,543名)と引き続き増加基調にあり、大半が個人株主であるところから、小売業である当社の店舗やECでのファンづくりにも貢献しています。
一方で、現在外国人投資家比率は7.51%(2024年3月末現在)と伸び悩んでおり、PBR向上に向け東京証券取引所が求める流動性の多様化の観点からも、中期的には倍以上に引き上げることを目指しています。各種資料の英語での同時開示・タイムリーな情報発信はもちろんのこと、機関投資家などとの個別IRミーティングには面談、オンライン問わず、原則社内の全取締役が参加しています。忌憚のない積極的なエンゲージメントを重ねることで、今後の経営判断に向けてさまざまな気づきを得ることが可能となります。また、当社が属する小売セクターをカバーする証券アナリストの方々との積極的な面談機会を設け、当社が有する独自性、差別化戦略について理解を深めていただけるよう積極的なディスカッションを行っており、資本コストや株価を意識した経営戦略の実践に活かす方向に進めています。
今後とも、プライム市場上場企業として、より一層積極的かつ資本効率を意識した成長投資と、株主還元の強化をバランスよく進め、IR活動をより一層活発化させ、幅広い投資家の皆さまに「中長期の投資先」として評価いただけるよう努めていきます。