経営理念「人と社会の未来を笑顔でつなぐ」への実現に向けて、次の世代へとバトンをしっかりつないでいきます。

 

 中期経営計画「JT-2025 経営計画」(以下、本中計)の初年度となる2023年度は、主要経営目標が当初予想値に届かず、経営トップとして悔いが残る1年となりましたが、あらためて2030年にJoshinグループのあるべき姿を描いた「地域社会の成長を支え、人と環境の未来に貢献する企業」を目指し、本中計の重要なカギを握る「収益力の向上」「効率性の追求」「成長力のUP」の3つを着実に実行してまいります。

外部環境の認識

 2023年の国内家電市場(Gfk Japan調べによる)は、新型コロナウイルス感染症の影響による巣ごもり特需や政府の特別給付金の反動、そして行動制限の緩和に伴うレジャー支出の増加など、さまざまな要因により前年比1.4%減の6.9兆円となりました。しかし、家電製品市場は、過去10年間で約7兆円の市場規模を維持しており、その安定性が私たちの生活に欠かせない存在であることを物語っています。2020年に導入されたメーカー指定価格制度は、価格競争を抑制し、販売店の在庫リスクを軽減しました。

 これにより、消費者は価格だけでなく、質の高い接客サービスを購入の決め手とする傾向が強まっています。このような市場環境の中で、当社グループの理念体系の根幹である社是「愛」の精神に則り、創業以来の「まごころサービス」をさらに推進し、「お客さまの暮らしに寄り添う『コンシェルジュ』」としてお客さまとの信頼関係を深め、お客さま一人ひとりに対する丁寧な対応と高品質なサービスを提供することで、環境の変化に左右されない強いビジネスモデルを構築し、持続可能な成長を目指してまいります。
※「常に相手の立場にたって行動する」の意味

2023年度の振り返り

 2023年度は、当社がオフィシャルスポンサーを務める阪神タイガースのリーグ優勝と日本一達成に伴う関連セールが第2四半期と第3四半期において売上増加に寄与したものの、全体の売上高は前期比1.2%減の4,036億円となりました。店舗数は3店舗減となりましたが、既存店舗の品質向上と販売力強化に努めた結果、店頭販売での売上高は前年比1.3%の増収となりました。EC事業においては、売上高は前期比14.5%減少しましたが、収益力強化のため自社サイト「Joshin webショップ」を中心とした構造改革を進めた結果、収益力はむしろ強化させることができました。

 利益面では、お客さまへの価値提供を最大化することでJoshinのファン・コアファンを増やしていく「ファンベース戦略」が、販売員の接客能力向上を通じて売上総利益率の向上に寄与し、売上総利益率は前年比0.6ポイント向上して26.0%まで伸長させることができました。人的資本投資や情報システム投資によって販売費及び一般管理費は前期比1.3ポイント上昇しましたが、これらの投資が売上総利益率の伸びを支えた結果、営業利益は前期比0.6ポイント増の83億円となりました。

 なお、店舗の減損処理及び政策保有株式の縮減を進めたことにより、経常利益と当期純利益は若干の減益となりました。

 本中計の主要目標に掲げた資本効率指標であるROE、ROA、ROICはいずれも前年を下回っており、特に株主資本コストを上回るROEを達成できなかったことは、PBRを改善するうえで大きな課題を残すことになりました。今後の経営戦略においては、これらの指標を改善することで持続可能な成長を実現し、投資家の皆さまの期待に応えていきたいと考えています。

「JT-2025 経営計画」の進捗

 2023年度における、本中計のカギを握る3つのポイントのうち「収益力の向上」と「効率性の追求」の2つについては、道半ばと考えており、残りの「成長力のUP」については、課題として認識しています。

 2024年度は本中計の折り返し点に位置し、重要な節目となります。当社グループは、投資に対するリターンを最大化することを目指し、ROE、ROA、ROICの各指標の目標値達成に注力しています。これらの指標は、持続可能な収益力を示すものであり、企業価値の向上に直結します。本中計の最終年度となる2025年度の営業利益110億円、営業利益率2.6%の目標は、2030年度の営業利益率4.0%達成に向けた重要なステップとなります。経営資源の効率的な配分、市場変化への迅速な対応、新たな収益源の開拓、コスト管理の徹底は、この目標達成に向けて不可欠な要素です。全社一丸となって取り組むことで、中長期的な企業価値の向上を図り、株主や投資家を含むすべてのステークホルダーの皆さまの期待に応えることができると考えています。

 「収益力の向上」に向けた取り組みでは、EC事業の構造改革とファンベース戦略の推進により、着実に成果を上げています。当社をご利用いただいたお客さまの総会員数は、過去1年間に新規で64万人増加して延べ2,560万人に達するなど、顕著な成果を上げることができました。会員年間平均購入金額も2,500円増加しており、顧客基盤の拡大と購買意欲の向上は、まさに「ファンベース戦略」の成果として評価されると考えています。特に、2024年2月にリリースした「ジョーシンスマイルプログラム」(新ロイヤルティプログラム)の導入は、お客さまとの関係強化という点で重要な役割を果たしています。このプログラムが、お客さまとのリレーションシップを強化し、ブランドロイヤルティの向上に寄与していると考えています。さらには、サブスクリプションやリカーリングモデルを取り入れた新規ビジネスの開発にも力を入れており、持続可能なビジネスモデルへの転換を進めています。これらの施策による新たなお客さま満足の創出が収益性の向上に大きく寄与することが期待され、企業の持続的な成長と市場での競争力の強化につながると考えています。

 「効率性の追求」においては、関西茨木物流センターの安定稼働と、2023年10月に増床した東京物流センターの機能拡充により、東西の物流ネットワークを強化しました。これにより、関東以北のお客さまへ商品をお届けする時間を短縮できたほか、物流の「2024年問題」への事前対応が可能となり、物流センター間の効率的な連携、輸送ルートの最適化、輸送能力の向上、そしてドライバーの負担軽減などの対策が推進されています。これらの取り組みは、物流コストの削減とサービス品質の向上を両立し、持続可能な物流システムの構築と技術革新による競争力の強化を目指す企業戦略の核となっています。今後も、物流における効率性の追求は、事業活動の基盤として非常に重要となりますので、一層の取り組み強化を推進してまいります。

 少子高齢化と生産年齢人口の減少は、労働集約型産業における人手不足を一層深刻化させています。当社グループでは、リアル店舗におけるICT実装などによる省人化を図り、リスキリングによって人財シフトを進め、これらの技術を活用することで、限られた人的リソースをより効果的に活用し、新たな価値創出につなげてまいります。

 「成長力のUP」については、当社グループがお客さまに価値を提供する領域が5カテゴリ※1あり、モバイル通信、リフォーム、サポートビジネスの3つを成長事業に位置づけています。2023年4月、モバイル通信とサポートビジネスの2つのカテゴリを所管する「ネットワークコミュニケーション営業部」を新設し、推進力を強化しました。特に、モバイル通信については、営業体制強化の一環で、育成プログラム研修の実施による販売スキルの向上や専門スタッフの制服導入により、結果として3期連続での増収を達成しています。モバイル通信機器(スマートフォン)は、今後も多様なサービスへの展開が期待されるため、引き続き成長の余地を秘めています。このような戦略的アプローチは、企業の持続的な成長に不可欠であり、今後もさまざまなサービスへの展開が期待されるなど、可能性を秘めた領域でもあり、まだまだ伸びしろがあると捉えています。

※1 P.15~16 価値創造プロセスにおけるビジネスモデル図参照

 

 次に、大きく期待を寄せているのがリフォームです。リフォーム市場は、近年顕著な成長を遂げており、特に高齢化社会におけるニーズの多様化がその推進力となっています。2022年のリフォーム市場規模が4年連続で過去最高の6兆8,600億円※2に達したことは、この分野の将来性を示唆しており、家電製品との親和性を活かした新たなビジネスモデル、新たな収益の柱とするには理想的であり、かつ多様化するお客さまのニーズに応えるためにも必要不可欠です。とりわけ、高齢化社会の進行で2030年には高齢化率(総人口における65歳以上人口)は約31%になると推定されており、介護リフォームサービスの需要は、高齢化率の増加とともにさらに高まることが予想され、専門知識を持つ人財の育成が不可欠です。本中計では、これらの多様なニーズに的確に応えるため、介護リフォームのエキスパートである「福祉住環境コーディネーター」の育成を進めています。福祉住環境コーディネーターのような専門職は、高齢者が安全安心で快適な生活を送るための住環境を整えることで、「高齢社会のレジリエンス強化支援」を高める役割を担っており、重要なビジネスと位置づけ推進してまいります。

※2 (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターが2024年1月5日に公表。この推計は、建築着工統計年報や家屋調査年報、全国人口・世帯数・人口動態表などをもとに、住宅の増築・改築工事費及び設備などの修繕維持費を合計したもの。

サステナブル経営の推進に向けて

 当社グループの、2023年度における気候変動対策の分野での顕著な成果は、企業の社会的責任と環境への配慮が高く評価された結果であります。CDPのAスコア獲得は、企業が持続可能なビジネスモデルを確立し、環境保全に対する強いコミットメントを持っていることを国際的に認められた証しと言えるでしょう。また、自社受電契約事業所である150の事業所で再生可能エネルギー電源比率を100%とし、地球環境への影響を最小限に抑制するためのマテリアリティ目標を計画どおり達成しています。2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みは、企業が社会的価値と環境価値の両方を重視することで、持続可能な未来への道を切り拓いていきます。

 一方、人的資本経営の推進は、企業の中長期的な成長と企業価値向上に不可欠です。2024年度から従業員向け業績連動型株式報酬制度を導入したことは、従業員の帰属意識と経営参画意欲を高める画期的なステップです。この取り組みにより、従業員は会社の成功に直接貢献しているという実感を持ち、モチベーションの向上が期待されます。また、ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、多様なバックグラウンドを持つ人財がそれぞれの能力を最大限に発揮し、新たなアイデアやイノベーションを生み出す土壌を育てます。これらの戦略を組み合わせることで、企業の競争力を高め、社会に対しての積極的な貢献を果たしてまいります。

株主還元に向けて

 当社グループは、2024年3月に配当性向の目標を30%以上から40%以上に引き上げることで、株主の皆さまへの利益還元の強いコミットメントを示しました。この決定は、資本市場との対話を通じて形成されたものであり、株主の皆さまの期待に応えるものです。2023年度の配当金額は前期比15円増の90円とし、2024年度は、当期純利益予想60億円に基づき、100円配当を予想しています。自社株買いについては、成長投資を含むキャッシュアロケーションの一環として、市況を踏まえ、適宜検討してまいります。当社グループでは、持続的に収益力を強化し、株主の皆さまへのインカムゲインの拡大と株価上昇による企業価値の向上を最大の株主還元と位置づけており、長期的な投資家の信頼を得るための重要なカギとなります。株主の皆さまの変わらぬご支援に心より感謝申し上げます。

むすびに

 本中計の初年度であった2023年度は、目標未達に終わりましたが、営業現場の「稼ぐ力」の向上、物流・配送・設置・工事などのインフラ整備、ICTの実装といった事業基盤の強化が進んだことは、将来の成長に向けての明るい兆しと言えます。特に、ICTの実装は、効率化と迅速な意思決定を促進し、ビジネスの柔軟性と対応力を高める重要な要素です。

 新型コロナウイルスの影響下での特需を受け、過去最高の売上高と利益を達成した2020年度は、ROEが9.4%、ROAが8.1%、ROICが8.0%であったが、当時の売上総利益率が25.0%であったことを鑑みれば、現場の効率化と収益性の向上により、売上総利益率が26.0%まで改善された2023年度では、本中計に掲げる目標も決して高いとは考えておりません。すなわち、本中計の目標達成が現実的であることを示唆しており、今後のさらなる成長と安定した業績の維持に向けて、確かな基盤が築かれていることを意味しています。

 引き続き、ステークホルダーの皆さまとともに歩んでいくことをお約束し、経営理念の実現に向け、企業価値の向上に取り組んでまいりますので、Joshinをご愛顧いただきますようお願い申し上げます。

上新電機株式会社

代表取締役 兼 社長執行役員