当社は本年、創業75周年の節目を迎えることができました。これは、お客さまをはじめすべてのステークホルダーの皆さまからの信頼とご支援の賜物であり、心より感謝申し上げます。

 創業100周年となる2048年までの25年間を第4コーナーと位置づけて、今後の成長シナリオを策定しました。その第一ステージとして、私たちは、2030年に「地域社会の成長を支え、人と環境の未来に貢献する企業」になることを目指していきます。この実現のために全社員が一丸となりさらなる事業拡大やイノベーション、社会貢献活動などに積極的に取り組んでまいります。

前・中期経営計画「JT-2023 経営計画」の成果と課題

 2020年度からスタートした前・中期経営計画「JT-2023経営計画」(以下、前中計)は、「Hop Step Jump」の3つのステージで例えると、大きな飛躍に向けた努力や準備を行う「Step」のステージとして、重要なステージと考えていました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の拡大、半導体不足、原材料価格の高騰やインフレ圧力、円安による輸入コストの増加など、さまざまな困難な状況に直面した結果、前中計の業績目標を達成することができず、「Jump」に向けた準備が十分にできないままとなりました。登山に例えれば、山頂を目指して登り始めた五合目で時間切れとなってしまったと私は思っています。

 業績面では、2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う政府からの「定額給付金」支給や「巣ごもり」による消費増により大きく業績が向上したものの、続く2カ年ではその反動を受け、自己資本比率以外の売上高、各利益項目、ROE、ROA、ROICの経営指標は、計画未達に終わりました。この結果については、経営トップとして責任を痛感しております。私は、この危機対応に明け暮れた3年間を無駄にすることなく、新中計では、この苦い経験を踏まえた新たなチャレンジに挑みます。

 こうした中で、私たちは、前中計の2つの基本方針である「各種販売チャネルの融合」「人財ポテンシャルを引き出し、最大活用する」及び、社是「愛」(「常に相手の立場にたって行動する」の意)の進化戦略である「ファンベース戦略」を着実に推進した結果、収益性指標の一つである売上総利益率は25.4%と2019年度比1.2ポイントの改善を図りました。また、インターネット販売も同比3割超の伸長を確保、2022年7月には、「関西茨木物流センター」を本格稼働、店舗とECの物流機能を一元化しました。このほか、デジタル販促の活用で広告宣伝費3割の削減を行い、店舗においては、お客さまと従業員の安全性を優先し、旧耐震基準の店舗を含め全体の約1割にあたる店舗のスクラップアンドビルドを進めるとともに、赤字業態の店舗を譲渡した結果、1店舗当たりの収益性が改善しました。これらにより、今後の成長に向けた事業基盤の整備を進めることができました。

 2021年には、57年ぶりに経営理念を「人と社会の未来を笑顔でつなぐ」に改めました。さらには、新しい経営ビジョンとして「家電とICTの力で生活インフラのHubになる」を掲げ、経営上の重要課題(マテリアリティ)を策定することで、当社が進むべき方向性を定め、未来の価値創造に向けて始動することができました。

中長期の成長シナリオにおける「JT-2025 経営計画」の位置づけ

 新中計では、経営理念、経営ビジョン、将来のあるべき姿の実現に向けてバックキャストで経営を見つめ直しました。当社が「こどもから高齢者まで、地域社会に暮らすすべての世代の今、そして未来が笑顔であふれる社会づくり」に貢献するためには、当社自体が持続的な成長企業である必要があります。

 新中計は、当社が持続的な成長企業となるため、2030年のあるべき姿である「地域社会の成長を支え、人と環境の未来に貢献する企業」に向けての「Second Step」と位置づけました。そして、私たちは、『お客さまの暮らしに寄り添う「コンシェルジュ」へ』のスローガンのもと、ファンベース戦略及びドミナント戦略を軸に「収益性」「効率性」「成長力」の3つの柱を強化することで、株主やステークホルダーの皆さまの期待に応え、「信頼」と「満足」の提供により、お客さまや社会に貢献するために、全社員が一致団結して挑戦し続けます。

新中期経営計画の3つのポイント

 新中期経営計画は、2023年3月31日の日本取引所グループからの「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」に応えることも意図し、経営指標や戦略を明確に示しました。

 ポイントは①「収益力の向上」②資本コストの低減を含む「効率性の追求」③「成長力UP」の3つです。

 まず「収益力の向上」の柱は、「ファンベース戦略」です。お客さまのニーズに応える商品・サービスを提供することで、お客さまの満足度を高め、お客さまの生涯価値を高める「課題解決策」を持続的に提供する。そして、お客さまとの結びつきをより強く、より持続的なものとすることで、少子高齢社会における人口減少の中でもお客さまの利用頻度、お買い上げ品目増による売上高の増加と、高付加価値商品の提案や多様な専門サービスの提供による収益性の向上を同時に進めてまいります。

 「効率性の追求」の柱は、Joshinならではの「ドミナント戦略」です。投資全体の7割を占める店舗関連投資の最適化は極めて重要です。当社のドミナント戦略は、当社の強みが活かせる商圏と商品・サービスに特化し、物流、サービスインフラ体制を構築、経営資源を集中投下することで他社との差別化を図ってまいります。リアル店舗では、関西・東海・関東・北信越の4エリアに店舗を集中することで効率性と競争力を高めてまいります。EC事業では、お客さまのライフスタイルに柔軟に対応するほか、店舗集積が低い地域のお客さまにも対応することで、リアル店舗との相乗効果、補完機能を発揮しています。今後は、EC売上高が高く、人口集中により成長ポテンシャルのある関東圏のお客さまニーズにも対応するための物流体制の拡充に取り組み、東西2拠点体制を構築するとともに、物流の2024年問題にも対処します。このようにして、私たちは、効率性の追求とお客さまの満足度の両立を実現してまいります。

 「成長力UP」については、「収益力」重視の成長戦略を推進していきます。これは、「ファンベース戦略」と「ドミナント戦略」の両立により、売上高の増加に加えて、利益率や効率性も高めることで、持続的な成長性を確保することを意味しています。具体的には、当社のサービスインフラが有効で、ドミナント効果が期待できる商圏、商品サービス分野に投資領域をフォーカスするとともに、お客さまの暮らしに寄り添うメンテナンス事業やリユース事業、レンタル事業などのサポートビジネスにより継続課金ビジネスの拡充を図っていきます。

サステナブル経営の推進に向けて

 100年企業としてのビジョンを実現するためには、お客さまへ生涯にわたる価値を提供する源泉である「人財」なくして成り立ちません。経営上の重要課題(マテリアリティ)の一つ「ダイバーシティ&インクルージョン」においても、人財の確保と育成、健康経営を取り組み課題として掲げています。私たちは、価値創造の源泉である「人財」をさらに充実させるために、以下3つの取り組みを進めています。第1は、「従業員エンゲージメントの高度化」です。従業員が自分の仕事にやりがいや誇りを持てるように、2022年7月より「ダイバーシティ・カウンシル」を本格稼働しており、エンゲージメントサーベイの実施とともにさらなる改善を進めていきます。第2は、「多様性の確保」です。接客接遇力の強化のためにも多様な価値観を持った従業員が互いに尊重し合い、協力し合える組織文化を築くことが重要です。当社では多様性を重視した採用や育成、配置などの人事施策を推進しています。最後に第3としては、「人的資本への投資」の加速です。従業員は、当社にとって最も重要な「資本」です。少子高齢化による「生産年齢人口の減少」は、事業継続に向けた大きな課題です。当社は、従業員の専門性及び、スキルアップに向けた教育や研修の機会を従業員に積極的に提供して、未来に向けた当社の持続的成長を牽引する人財基盤づくりに取り組んでいきます。

 また、サステナブル経営推進のため、ガバナンスの強化も欠かすことができません。取締役会では、資本収益性の向上の取り組みを定期的に検証、資本コストを意識した効率経営を推進しています。

 2023年6月には、取締役報酬制度を改定して、中長期の経営戦略と役員報酬の連動性を強化しました。具体的には、固定と変動報酬の割合を「5:5」として、さらに長期のインセンティブ報酬を全体の30%、その内訳をROE(10%)、CDPスコア(10%)、従業員エンゲージメントスコア(10%)としました。この改定により、短期的な業績向上に加えて、持続的な成長と社会的責任の遂行にも配慮する報酬制度としています。

むすびに

 私は、当社の75年の歴史を振り返り、今日の成長は、多くのお客さまや取引先、従業員や株主の皆さまの信頼とご支援の賜物であると深く感謝しております。当社は、創業から一貫して、社是「愛」の精神を実践し、お客さまのニーズに応える高品質な製品やサービスを提供してまいりました。これからも、社会に貢献する企業として、経営理念「人と社会の未来を笑顔でつなぐ」のもと高い倫理観を持ち続け、事業を展開してまいります。

 経営理念を実現するためには、当社自体が持続的な成長企業となることがその前提条件となります。そのために、投下資本を超える利益を確保し、利益成長を続けることこそ、企業価値の向上、時価総額の拡大、「PBR1倍超」の実現、ひいては、当社自体が持続的な成長企業となることにつながると考えています。私たちは、新中計の遂行により「収益力」を高め、最終年度となる2025年度にはROE8.0%以上、ROA5.0%以上、ROIC5.0%以上を目指してまいります。

 株主・投資家をはじめとするすべてのステークホルダーの皆さまとの建設的な対話を重視し、信頼を得ることで持続的な成長を実現していきます。そして、私たちは、当社と社会の持続的な発展に向けて、皆さまとともに歩んでいくことをお約束し、全力で取り組んでまいりますので、引き続きJoshinをご愛顧いただきますようお願い申し上げます。

代表取締役 兼 社長執行役員