社外取締役座談会

社外取締役   社外取締役   社外取締役   社外取締役

内藤 欣也  山平 恵子  河野 純子  西川 清二

キャリアを活かした率直かつ積極的な提言により、 取締役会の実効性向上及び新たなビジネスモデル確立による企業価値拡大をサポートします。

社外取締役の役割と責任:
それぞれのキャリアを活かし、収益性向上、企業価値拡大に向けて注力する


内藤 私は弁護士としての立場から、コンプライアンス、内部統制など、企業価値を下支えする取り組みに加え、制度的なインフラ整備などについて提言することを、自身の責務であると任じています。近年、私たち社外取締役の発言で取締役会の議論が活性化してきていることについては、率直にうれしいと感じています。

山平 私は、自分自身の企業経営の経験による知見を活かし、持続的な成長、資本効率・収益性の向上、そして人的資本の充実など、経営的なアドバイスを心がけています。新中期経営計画の初年度にあたる今期は、当社の置かれている事業環境を考慮し、経営資源を最大限に活用したうえでの新規領域の拡大や既存事業での収益性の向上に注力したいと考えています。
河野 私は、BtoC領域における事業、サービス開発に長年携わってきました。その経験を活かし、新しい価値の創造やライフスタイルの提案につながる新規事業及びサービスに対して適切な提言をしていきたいと考えています。また多様なお客さまのニーズを先取りし、事業に活かしていくためには、多様な人財の活躍が欠かせません。女性の活躍をはじめとするダイバーシティ&インクルージョンの推進という観点からのアドバイスも重要な役割と考えています。
西川 私にとっては、今回、社外取締役は初めての経験で、どう対処すべきか迷いましたが、2021年度の統合報告書の中での内藤社外取締役のメッセージを拝見して理解を深めました。「社外取締役は株主の代表者として客観的な観点で会社経営への助言および監督を行うことが期待されているが、CEOがリスクを取って果断な決断をする際のサポート役だとも考えている」と。これに加えて、DXやICT分野におけるキャリアを活かして、執行側に必要なアドバイスをすることも重要だと思っています。


取締役会の実効性向上に向けて:
執行役員会への権限委譲、取締役のスキルアップなどの観点から率直な提言を目指す


内藤 取締役会においては、つねに率直に発言することを心がけています。過去、当社の取締役会では、戦略レベルの案件に交じって個別の業務執行案件が付議されるケースもあり、議案の整理が必要だと感じていました。そこで、本当に議論の必要なものだけに絞ろうと、稟議決裁規程を大幅に改定することにしました。多くの承認権限を取締役会から執行役員会に委譲し、従来、月2回の取締役会を平均で月1回に、年間で14回に減らすことができました。こうして、取締役会に余裕ができたことで、まさに現中期経営計画に関する議論や、人財育成に関する議論などに時間を割くことができるようになりました。これが、この4年間の変化だと思います。
西川 執行役員会が週1回開催され、私はそのうち月1回オブザーバーとして参加するだけなので、例えばICTやDX領域における実際の現場の動きをしっかり把握できているか不安に感じることがあります。就任後間もないこともあり、執行役員会などのディスカッション内容については、積極的に背景的事情を確認するよう心がけています。
河野 執行役員会のアジェンダと資料は私たち社外取締役にも共有されており、それを見てさらに議論を深堀りしてほしいなと感じることはあります。中長期的な案件をもっとフランクに話せるラウンドテーブルのような機会があると、ビジネス観の共有も含めて深い関係性ができると思います。
山平 確かに、昨今、取締役会は実際の執行よりもモニタリング、監督・評価の機能が中心となっており、社外取締役としてどこまで踏み込んで意見を述べてよいのか迷う場合もあります。アドバイザリーボードの機能充実の仕組みを考えてみたいと思います。
内藤 取締役会の実効性という観点からいえば、2017年度以降、役員トレーニングを実施しています。ただ、座学中心であるため実務的なスキルが身についたかといわれると、そこまでは到達していないので、今年度から各役員が自分のスキル不足を補うために、自らの選択で独自に研修を受ける制度に改めました。会社側が用意した研修とは異なり、自らの課題にアプローチすることで、より効果が上がると期待しています。また、役員の職掌についてもジョブローテーションしたほうが良いと考えていますが、現在、スキルを多様化するための試みとして、担当分野を横断する形のプロジェクトをそれぞれに担当してもらう試みを進めています。このように、実効性向上という取り組みとしてはしっかり前へ進んでいると考えています。
 また、近年、株主、投資家の目を意識し、役員報酬に業績連動を導入する動きが拡大しています。当社においても固定報酬と業績連動報酬の比率、及び金銭報酬と株式報酬の比率を改定し、それぞれ固定と金銭報酬の比率を下げました。これは、当社にとって思い切った見直しで、個々の取締役が業績に対してしっかり責任を持つということを、より明確にしたという点で、高く評価できるものだと考えています。

新中期経営計画「JT-2025 経営計画」について:顧客情報の的確な活用、計画目標の明確化を促し、戦略遂行をサポートする


内藤 新中期経営計画「JT-2025 経営計画」では、ファンベース戦略を推進しています。従来、当社は家電製品を購入していただいたお客さまに対して、買い換え時期が来ているといった情報を伝えきれていないという事例もあるなど、膨大な顧客情報を蓄積しながら、どう活用しているのかが見えていませんでした。当社のファンになっていただけそうなお客さまをもっと深掘りしていかなければいけないと思います。当社の売上の相当な部分が、一定の割合のファン顧客で成り立っているということが統計的に明らかになっています。このファン顧客を大切にし、さらにファン層をどのように拡げていくのかという課題に取り組むのがファンベース戦略であり、新たな中期経営計画を策定するにあたっての中心的な議論になりました。
西川 ファンベース戦略を中心とした新中期経営計画を実現するためには、DX・ICTが必要不可欠となります。当社の最重要資産である顧客データを活用し、お客さまに根ざしたいろいろな新サービスを迅速に安くかつ継続的にシステム開発していかなければなりません。そのためには、現行の情報システムは顧客データを軸としたシンプルで全体最適なプラットフォームに移行していく必要があります。現在、社内ではDX委員会を発足させて、上新電機全体の情報システムのあるべき姿をグランドデザインとしてまとめていただいています。今後はこれをバイブルにしてシステム開発を行うことになりますが、私はその一連の進捗をモニタリングしたいと思っています。

河野 私が当社の経営に参画して最初に気づいたことは、マーケティング戦略の進化が必要だということでした。情報がこれだけ氾濫している時代においては、マス広告で新規のお客さまを獲得することは大変難しくなっています。一方で、当社には質の高いサービスによって培われたファンがいらっしゃる。このファンの方々に何度もご利用いただく、あるいは感動していただいて次のお客さまをご紹介いただくこと、これこそが新たなお客さまにアプローチする成長戦略です。また人口が減少していく日本においては、家電販売というワンショットのサービス提供だけではシュリンクしていきます。そうした変化に対応し、お客さまのコンシェルジュとなって暮らし全般の課題解決サービスを提供し、長くご利用いただくというファンベース戦略を当社の中心的な戦略と据えたことを私は高く評価しています。加えて、この戦略の内容・目的をステークホルダーの皆さまに適切に伝えていくことも重要であると認識しており、コミュニケーション戦略もあわせて進化させる必要があると考えています。
山平 今期は2021年に中長期ビジョンをリリースしてから初めての新中期経営計画のスタート年となるわけですが、 2021年の計画をブラッシュアップし、事業セグメントも明確になってきていると評価しています。本中期経営計画を実行する過程で2030年を視野に入れ、より具体的な計画が策定されていくものと思います。当社が営業戦略の要と位置づけるファンベース戦略においても、お客さまのお役に立って、信頼していただき何度でも当社を頼っていただけるような企業になろうという思いから始まったと認識していますが、戦略自体の枠組みも出来上がり、今後具体的な施策が実行されていく中で、喜んでいただけるお客さま・ファンが増え、ひいては収益性の向上にも寄与するという期待感があります。私自身のBtoC事業におけるマーケティングや経営経験からアドバイスを心がけたいと思います。
 新中期経営計画でもECは大きな役割を担っています。昨年新たな物流センターも稼働しましたが、今後も物流改革を進めていくことで、ますます拡大が望める事業になってきました。
 一方、「PBR1倍割れ」解消についてのテーマがクローズアップされています。株価はマーケットが決めるものとはいえ、企業としてはマーケットに認めていただける努力が必要です。ここでまず当社が取り組むべきことは、既存事業の経営の効率化を実現し、収益性を高めることだと考えています。既存事業でしっかり利益を出し、既存事業以外への投資も積極的に行い、成長ドライバーとなる事業の柱に育てることが求められます。また、投資行動としてESG投資が主流となってきていますが、当社の気候変動への対策は計画通りに進捗しています。こうした当社の取り組みを投資家の皆さま、ステークホルダーの皆さまに知っていただくためにはIR、SR、さらにブランディング活動を通してタイムリーに開示していかなくてはなりません。これらを推進するにあたって要になるのは人財です。当社は離職率の低さという点で非常に優れた企業なのですが、それだけにスキルや価値観などの多様性に欠ける点があるという印象が否めません。外部からの人財を積極的に採用し、スキルや価値観の多様化を図り、“人”からイノベーションを起こすことも必要だと考えています。

内藤 確かに、実効性評価の課題認識の一つとして、資本コストを意識し、PBRについて議論していくことが必要だと思います。一方で、中期経営計画において連結経営指標や資本効率の指標などを取り上げたことは大きな進歩だと捉えています。目標に具体性が伴わなければ、ロードマップも明確に示せないからです。資本コストに関する数値目標を示すことで、何をすればそこに到達できるかということを、皆が意識するようになったことは、とても意義のあることだと思います。

社外取締役としての役割と抱負:
中長期的な視点に立ち、新たなビジネスモデルの確立と社会価値創造を支援する


西川 家電量販事業は、今のままでは、成熟産業で終わってしまうでしょう。これをどうやって新たな成長産業に蘇らせるか?そのためには「、お客さまの暮らしに寄り添うコンシェルジュへ」というスローガンのみならず、新規に周辺事業を立ち上げるなど、新中期経営計画をより具体的な事業ポートフォリオまで展開した事業計画にブラシュアップする必要があります。また、家電業界を取り巻く外部環境も大きく変化しようとしています。例えば、メーカーによる販売価格の指定やメーカーの直接販売などの動きによって、家電量販店にとって従来のビジネスモデルが大きく変化する可能性も出てきています。いずれも、このような極めて重要な経営課題は今が正念場であり、この時に任ある社外取締役として、積極的に取り組んでいきたいと思っています。
河野 これからの企業は社会的価値の創造が重要であり、私はその実現を支援していきたいと考えています。例えば当社は「高齢社会のレジリエンス強化支援」を社会価値の一つに掲げていますが、その実現のためには消費者のライフスタイルの変化をもっと研究する必要があります。65歳以上の人口が30%を占める時代において、生活環境や健康状態、価値観によって必要なサービスはまったく異なります。加齢による身体的変化を正しく理解したうえで、一人ひとりのお客さまのライフスタイルに寄り添い、適切な機能の家電や周辺サービス、リフォームなどを提案し、豊かな暮らしをサポートしていく。これこそが「高齢社会のレジリエンス強化支援」につながると考えています。
山平 国内の事業環境は、ほかの企業も同様ですが、既存事業だけでは大きな成長が難しくなってきています。中長期な成長を目指す視点で、家電量販事業以外のセグメントも新たに見直しを実施いたしましたが、その経営計画をより具体化し2本目、3本目の事業の柱に成長できるように、そして事業環境の変化によっては思い切った挑戦や経営判断が必要な時もあるかと思いますが、しっかりとサポートしていきたいと思います。
内藤 現在、当社の事業はリアル店舗とECの2つと見えますが、どちらも家電販売であることに変わりはありません。そこから、新たな柱を創造するためには、M&Aを検討する勇気を持ち、新たな事業分野に踏み出していくことも検討するべきで、私もそうした視点に立った助言に努めたいと思います。