社外取締役座談会

社外取締役   社外取締役   社外取締役   社外取締役

西川 清二  河野 純子  山平 恵子  内藤 欣也

キャリアを活かした率直かつ積極的な提言により、 取締役会の実効性向上及び新たなビジネスモデル確立による企業価値拡大をサポートします。

はじめに:

経営戦略、事業戦略について特化した議論の深掘りはさらに必要


内藤 2023年度の取締役会では、前年度課題であった取締役会の活性化、中長期の経営戦略のブラッシュアップと資本コストを意識した効率経営の推進に対して、多様な知見を活かした多角的な議論、執行役員会への大幅な権限移譲によるモニタリングの強化などの審議を進めました。一方で、2023年度の業績は、中期経営計画「JT-2025 経営計画」(以下、本中計)の資本収益性指標が計画を大きく下回る結果となりました。独立社外取締役の共通課題認識である経営戦略やファンベース戦略の進化に関して、議論の深掘りはさらに必要であり、皆さんと議論したいと思います。

 

「JT-2025 経営計画」初年度の振り返り:

目標未達に対して、取締役会としての実効性はあるのか、その責任はどこにあるのかということをしっかり検証しなければならない

 

内藤 2023年度の決算は当社が公式スポンサーとなっている阪神タイガースの優勝という大きなイベントがあったにもかかわらず、この好機を十分に活かせずに目標未達となりました。阪神の優勝セールがお祭りだという意識が少なからずあり、取締役会までもが浮き足立ってしまったと感じています。日本一セールの前の大幅な買い控えやセール終了後の売上の落ち込みに対して、取締役会として実効性のある対策が打てなかった、経営への助言やモニタリングが十分ではなかったという反省はしなければならないと思っています。
河野 本中計の中核であるファンベース戦略を、売上と利益に結びつけていく施策のモニタリングが十分ではなかったと感じています。コアファン、ファンのお客さまも含めたお客さま全体に向けて何が提案できるのか、現場の一人ひとりが考え、チャレンジし、その成功事例を共有し、全社に戦略として展開していく。こうしたサイクルを、スピード感を持って、例えば四半期単位で回していく必要があったのではないでしょうか。またお客さまに提案する際に大事なことは、当社が発揮したい社会価値とのリンクです。当社は社会価値として、「高齢社会のレジリエンス強化支援」「家庭のカーボンニュートラルの実現」を掲げています。この価値に合致した質の高い提案を磨き、売上に結びつけ、その結果、利益もついてくる。そのような流れをつくっていくことが大切です。経営から現場へのメッセージが、まず利益ありきということになっていなかったかも検証しておきたいと思います。
西川 これまでは当社の社風でもありますが、ボトムアップ型の施策提案が多かった印象があります。それも大事ですが、大きな舵取りには全社戦略としてトップダウンの戦略、それを推し進めるリーダーシップも必要だったと思います。

 

サステナブル経営と成長戦略:

強力なリーダーシップのもと、ファンベース戦略とDX推進の2軸で、家電販売自体の構造改革に挑戦してほしい


河野 当社を取り巻く昨今の外部環境を振り返ると、家電量販店ビジネスに先行きの不透明さが増していると感じられます。私は、長年にわたって新規事業の開発をやってきた経験と、ファンベース戦略に対して大いに賛同している立場から、リフォームを中心とした新領域に可能性を感じています。当社には70年にわたって大切にしてきたファンのお客さまがベースとしてあり、それらのお客さまが高齢化していく中において、リフォームの需要は大きくあるでしょう。また配送、設置、工事を担うジョーシンサービスがお客さまのご自宅まで伺っている価値も大きいと思います。伺った際に御用聞きができるわけすから。ファンベース戦略は、将来の当社を支える中核戦略です。2024年度に担当役員を配置し、この戦略の推進体制が本格化しており、大きな期待を寄せるとともに、しっかり支援していきたいと思います。
西川 河野さんのご認識のとおり、私は「家電販売の構造改革」が、当社にとってサステナブル経営の前提だと思っています。これを着実に進めるためには、ファンベース戦略とDX推進の2つのポイントがあります。
 まずファンベース戦略ですが、これまでの延長線上の施策だけではなく、顧客層に響く統合的な施策が必要だと思います。例えば、組織体制の変更です。当社の行動すべてがファンベース戦略に紐づいていることを核となる組織(例えば、ファンベース戦略本部)をつくって社内外に示し、全社で一体感を醸成します。そして、本組織に営業、マーケティング、広告宣伝など権限を与え、ファンベースを念頭に今までの仕事のやり方変革していくのも一案ですし、百貨店の外商戦略を参考にしてもよいと思います。
 次にDX推進ですが、当社システムは、各組織が必要なものを整備した結果、サイロ化の恐れがあります。早期にお客さまを起点にファンベース戦略の実現を見据えた統合的なプラットフォームの構築、または移行が必要です。
山平 将来に備えて、足元から毎年、毎年の取り組みも大事ですが、一方で、本中計の各目標数値は簡単な数字でないと思います。目標達成のためには、①店舗、②商品、③マーケティング・販売、④コストの各戦略について、従来の延長線上でよいのか不断の見直しが必要ではないでしょうか。
 また、当社のサステナビリティを考えるうえで、長期的には、家電販売の業界構造が大きく変わる可能性もあり得ます。不確実性の高い時代に企業が持続的に成長しサステナブルであるためには、経営陣の時代の変化を捉える感度とともに、情熱とビジョン、スピード感を持って行動することが求められます。そして、それを全社に浸透させることが成功の鍵となります。

内藤 今回の議論で家電販売の構造改革というアジェンダを取り上げたのは、2023年度決算において、在庫と有利子負債が増加傾向にある点に懸念を抱いたことがきっかけです。当社は創業以来、冷蔵庫などの大型の商品から乾電池に至るまで、店舗にあらゆる電気製品を並べるという商売をしてきましたが、店舗に、ここまでの品揃えをしなければならないのかということを、再検討する余地があります。当社は経営理念体系における2つの社会価値の創造として、「高齢社会のレジリエンス強化支援」と「家庭のカーボンニュートラルの実現」を掲げています。今後、この方針に即した価値提供を行っていくためには、あらためて商品ラインアップや商品価値の訴求方法を見直すことも視野に入れたり、店舗ごとにオリジナリティのある店舗戦略、商品戦略を考えていくべきと考えます。
山平 メーカーが主導する指定価格制度は短期的には当社の強みである接客力を活かすチャンスと見ています。ただし、中長期的に同じ見方ができるかは、今後、取締役会において継続的な議論が必要です。現在、5つの事業カテゴリを打ち出していますが、これを当社の事業ポートフォリオとして成長させ、確立するためには、当該事業の中長期的な将来像、規模感などのターゲットを定め、目標達成のための年次ごとのKPIの進捗を取締役会において確認し確実に推進していくことが必要です。当面は、これらの事業の育成に取り組み、家電の次に柱となる事業に育てていく戦略ですが、私もしっかりサポートしていきたいと思います。家電という基幹事業でしっかり稼ぐ力がなければ、次なる成長戦略は描けません。生み出したキャッシュ・フローは基幹事業だけでなく、成長戦略へ投資しなければ、次のステップには行けないのです。リフォーム事業については、多くのお客さまを持つ当社には大きな可能性があり、戦略次第で非常に魅力的な事業になると考えています。5つの事業が当社を支える事業の柱として育っていく姿を市場に明確に示すことができたら、PBR(株価純資産倍率)も上がっていくと思います。

西川 これら成長戦略の実現のためには、さまざまな施策においてスピード感を持って進める必要があります。そのためにサードパーティーと組むことも必要ですが、この時に肝心なのが、自社で戦略・方針を立てることだと思います。何をしたいのか(WHAT)を当社自身で徹底的に考える。WHATが明確であれば、実行面(HOW)はサードパーティーの力を借りることで実現できるし、ノウハウが当社に蓄積されます。

 

従業員エンゲージメントの取り組み:
経営理念への共感や経営陣への信頼、働きがいを高めるためには、トップダウンによるメッセージ発信、現場のリーダーシップが必要


内藤 エンゲージメントサーベイの結果から働きやすさ、労働環境については高く評価されています。一方で、経営理念への共感や経営陣への信頼については課題が残されています。ここを高めなければ、従業員の実行にまではつながりません。経営戦略への理解や信頼を得る適切な方策のさらなる発信やコミュニケーションが必要だと感じています。

河野 経営理念やビジョンの浸透を図るためには、対話が重要です。例えば「高齢社会のレジリエンス強化支援」「家庭のカーボンニュートラルの実現」という2つの社会価値について、自分たちの現場でできることは何か、各店舗で話し合う機会を設けていくとよいでしょう。もう一つ気になっていたのは、女性の中間管理職のエンゲージメントが低いことです。ただキャリア支援フォーラムなどを通じ、女性のキャリア形成も少しずつ進むなどD&Iの動きは実効性という観点で着実に推進していると考えています。
西川 経営陣と現場スタッフとをつなぐ管理職の役割が重要だと思います。社員のロールモデルとなるようなリーダーを引き上げていくのも一つの手段です。
山平 当社は非常に離職率が低く、本当に働きやすい環境にあると感じます。ダイバーシティ推進室による働きやすさの改善、待遇面の改善も進んでいます。ただ、もう一段、エンゲージメントを上げるためには、社員がより一層働きがいを感じることが必要です。社員一人ひとりが会社の中で自分が果たすべき役割を理解し、経営理念やビジョンと自身の目標のベクトルを合わせ、成長を実感できれば企業全体の大きな力になります。 そのためには、経営層、現場のリーダーを含めて積極的な取り組みを推進する必要があります。

社外取締役からの提言:
経営陣がリーダーシップを発揮してトップダウンで戦略を推進し、取締役会として業績や議案進捗についてのモニタリングをさらに強化しなければならない

 

山平 中期経営計画の達成、さらにその先のビジョンの実現に向け、今は大変重要な局面と認識しています。取締役会においては、全員がアドバイザリーボードの役割を発揮したものの、戦略や業績のモニタリング、フォローアップに伸びしろがあったと考えています。取締役会での議案や進捗状況のレポーティングとその内容のフォローをさらに強化する必要があります。 目標達成のため、私も社外取締役として全力で支援していきます。
内藤 2023年度は、阪神タイガースの優勝イベントもあり、周囲の期待が高かっただけに、会社業績には課題を痛感しています。今年度は、その轍は踏んではいけません。全取締役がこのことを胸に刻み、経営の在り方を考えていきたいと思います。それぞれの取締役が、外部環境の変化を鋭敏に捉え、戦略・施策の推進と業績の進捗状況を迅速かつタイムリーにフォローアップしていくことを意識的に議論したいと思います。
西川 私からは2点。一つは、経営陣がリーダーシップを発揮してトップダウンで戦略を推進していくべきで、そのような社風の醸成をしていかなければならないと思います。もう一つは指定価格制度やメーカーの直接販売など外部環境の変化により、従来のビジネスモデルが大きく変わる可能性に対して、どのようなシナリオでどう対応して行くかを考えておかなければならないことです。
河野 当社は将来に向けて、今、大きく変わろうとしているタイミングです。このタイミングでは人財の強化がとても重要です。変化の時にはこれまでとは異なる人財も必要になります。人財の強化が組織の強化、変革につながるようにサポートしたいと考えています。